白バラが赤く染まった日
『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々』
【 Sophie Scholl / Die letzten Tage (2005) 】

1942年6月28日に始まったスターリングラード攻防戦…
当初はなんとか攻勢に進めていた戦闘も頑強なソ連軍の抵抗に苦しめられ劣勢に転じることになる。
そして1943年1月31日…
ナチス政権発足10周年の記念日でもあったその前日(30日)に、陸軍元帥に昇進させていた第6軍司令官のフリードリヒ・パウルスは、そのヒトラーの厳命に逆らいきれず、第6軍全体の降伏というカタチではなく、あくまでも司令部としての投降という体でミハイル・シュミロフ中将指揮するソ連軍第64軍に降伏した。
このため、第6軍全体としては各師団単位で個々に降伏することとなり…
2月2日のシュトレッカー陸軍歩兵科大将率いる第11軍団の投降によりついに終結をみた。
そうした劣勢の戦況にあって尚、国民を戦争にかき立てるヒトラー政権に対し…
ミュンヘン大学医学部の学生であったハンス・ショルとクリストフ・プロープストらが中心となり非暴力的反ナチス抵抗運動…いわゆる“白バラ(Die Weiße Rose)”が結成された。
ハンスとクリストフら学生のなかにはフランス侵攻、東部戦線に従軍しその惨状を目の当りにし、さらにスターリングラード攻防戦における大敗を直視しなければドイツ自体の破滅に繋がり兼ねないとの思いを強くし、一刻も早く戦争及び殺戮をやめねばならないと喚起を促す活動に専念する。
1942年7月以降、一旦下火になっていた活動ではあったが…
翌1943年1月に5号目となる「白バラ」ビラを作成・配布などを再開する。
この間に兄であるハンスと考えを一にした、やはりミュンヘン大学哲学科の学生であった妹のゾフィー・ショルも活動に参加している。

左から衛生兵時代のハンス、ゾフィー、クリストフ

ゾフィーを演じたユリア・イェンチ(左)と本人(右)
そして運命の2月18日…
兄妹らは講義終了にあわせてミュンヘン大学構内に1000枚以上の「白バラ」6号ビラを撒いた(置いた?)との嫌疑で逮捕されることとなる。
戦後50年程を経て旧東ドイツ地区に保管されていたゲシュタポによるゾフィー達の尋問調書、関連の捜査・逮捕記録、処刑記録などが公開されるなかで、その最期をめぐる真実も明らかになった。
その資料および政治犯として5日間同じ監房でゾフィーから直接話を聞いたエルゼ・ゲーベルの回想(『白バラが紅く散るとき』)などを基に2005年にドイツで制作されたのが『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々(原題:Sophie Scholl / Die letzten Tage)』である。
逮捕からわずか5日間で取り調べ、裁判そして即日処刑執行となったゾフィー達の様子を出来得る限り忠実に再現した映画なのである。

そして、この映画ではその取り調べのシーンにかなりの時間が費やされ…
ゾフィーを取り調べるロベルト・モーア尋問官も重要な役割を果たしている。
後年公開された尋問調書でもゾフィーの信念を貫こうとする強い意思とその態度に深く心を動かされたようで…
「兄を手伝っただけ」と認定してゾフィーを救うおうとしていたことが傍証された。
また、エルゼの回想録においてもゾフィーの裁判の前日に果物、ビスケット、タバコなどを差し入れしエルゼに彼女の様子などを尋ねるなど尋問官としては数少ない親切な人物だったと語られている。

そのロベルト・モーア刑事役を演じているのはジェラルド・アレクサンダー・ヘルト。
『シンドラーのリスト』では親衛隊(SS)官僚を演じている。
さて、話を戻すと…
取り調べは昼夜の別なく4日間行われ…
22日にはベルリンの民族裁判所長官ローラント・フライスラーによる“正義”の裁判が開かれることとなる。
フライスラーといえば…1944年7月20日に起きたヒトラー暗殺未遂事件の被告に対する裁判の模様をご覧になられた方もおられることと思う。
フライスラーは“死の裁判官”といわれるほど、長官就任後の締め付けは厳しく…
彼の担当した裁判においては死刑あるいは終身禁固刑判決が激増した。

ローラント・フライスラーの裁判(7.20ヒトラー暗殺未遂事件公判)中の実際の映像
劇中アンドレ・ヘンニッケはそのフライスラー役を迫真の演技で熱演している。
額に青筋を立て罵倒する姿はその裁判の様子などをよく研究したのではないかと思える。
因みに、ヘンニッケは『ヒトラー 〜最期の12日間〜』でヴィルヘルム・モーンケSS少将役を…
『ヒトラーの建築家 アルベルト・シュペーア』ではルドルフ・ヘス副総統役を演じている。

午前10時に開廷した裁判は審議休廷をはさみ午後1時半ごろには判決が言い渡された。
判決は…勿論、“死刑”…
それも猶予期間も認められず…しかも即日執行というあまりに不当なものであった。
言論・思想統制に神経を尖らせていた政府、警察当局が、一学生たちの“白バラ”抵抗運動にさえ危険性・危機感を感じ、執拗に封じ込めようと躍起になっていたことが窺われる。
そしてシュターデルハイム刑務所に戻されたゾフィー、ハンス、クリストフら3人の刑は午後5時に執行された。
映画のラストシーンではゾフィーが断頭台の置かれた処刑室に入り斬首されるところで暗転…
後は音(声)のみのというところが逆にリアル感を演出している。
ゾフィーは、逮捕後の尋問の際の「こういったことを全部よくお考えになっていたら、あのような行動はとらなかったのではないですか?」という質問に…
「私はもう一度、すっかり同じ事をやるでしょう。 考え方の間違っているのは私ではなく、あなたがたの方なのですから…」と答えたという。
一貫した彼女の毅然とした姿勢、生き様を描いた映画としても…
また映画として純粋に作り手、演じ手の描き方を堪能するにおいても見応えのある作品なのではないだろうか。
【 Sophie Scholl / Die letzten Tage (2005) 】

1942年6月28日に始まったスターリングラード攻防戦…
当初はなんとか攻勢に進めていた戦闘も頑強なソ連軍の抵抗に苦しめられ劣勢に転じることになる。
そして1943年1月31日…
ナチス政権発足10周年の記念日でもあったその前日(30日)に、陸軍元帥に昇進させていた第6軍司令官のフリードリヒ・パウルスは、そのヒトラーの厳命に逆らいきれず、第6軍全体の降伏というカタチではなく、あくまでも司令部としての投降という体でミハイル・シュミロフ中将指揮するソ連軍第64軍に降伏した。
このため、第6軍全体としては各師団単位で個々に降伏することとなり…
2月2日のシュトレッカー陸軍歩兵科大将率いる第11軍団の投降によりついに終結をみた。
そうした劣勢の戦況にあって尚、国民を戦争にかき立てるヒトラー政権に対し…
ミュンヘン大学医学部の学生であったハンス・ショルとクリストフ・プロープストらが中心となり非暴力的反ナチス抵抗運動…いわゆる“白バラ(Die Weiße Rose)”が結成された。
ハンスとクリストフら学生のなかにはフランス侵攻、東部戦線に従軍しその惨状を目の当りにし、さらにスターリングラード攻防戦における大敗を直視しなければドイツ自体の破滅に繋がり兼ねないとの思いを強くし、一刻も早く戦争及び殺戮をやめねばならないと喚起を促す活動に専念する。
1942年7月以降、一旦下火になっていた活動ではあったが…
翌1943年1月に5号目となる「白バラ」ビラを作成・配布などを再開する。
この間に兄であるハンスと考えを一にした、やはりミュンヘン大学哲学科の学生であった妹のゾフィー・ショルも活動に参加している。

左から衛生兵時代のハンス、ゾフィー、クリストフ

ゾフィーを演じたユリア・イェンチ(左)と本人(右)
そして運命の2月18日…
兄妹らは講義終了にあわせてミュンヘン大学構内に1000枚以上の「白バラ」6号ビラを撒いた(置いた?)との嫌疑で逮捕されることとなる。
戦後50年程を経て旧東ドイツ地区に保管されていたゲシュタポによるゾフィー達の尋問調書、関連の捜査・逮捕記録、処刑記録などが公開されるなかで、その最期をめぐる真実も明らかになった。
その資料および政治犯として5日間同じ監房でゾフィーから直接話を聞いたエルゼ・ゲーベルの回想(『白バラが紅く散るとき』)などを基に2005年にドイツで制作されたのが『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々(原題:Sophie Scholl / Die letzten Tage)』である。
逮捕からわずか5日間で取り調べ、裁判そして即日処刑執行となったゾフィー達の様子を出来得る限り忠実に再現した映画なのである。

そして、この映画ではその取り調べのシーンにかなりの時間が費やされ…
ゾフィーを取り調べるロベルト・モーア尋問官も重要な役割を果たしている。
後年公開された尋問調書でもゾフィーの信念を貫こうとする強い意思とその態度に深く心を動かされたようで…
「兄を手伝っただけ」と認定してゾフィーを救うおうとしていたことが傍証された。
また、エルゼの回想録においてもゾフィーの裁判の前日に果物、ビスケット、タバコなどを差し入れしエルゼに彼女の様子などを尋ねるなど尋問官としては数少ない親切な人物だったと語られている。

そのロベルト・モーア刑事役を演じているのはジェラルド・アレクサンダー・ヘルト。
『シンドラーのリスト』では親衛隊(SS)官僚を演じている。
さて、話を戻すと…
取り調べは昼夜の別なく4日間行われ…
22日にはベルリンの民族裁判所長官ローラント・フライスラーによる“正義”の裁判が開かれることとなる。
フライスラーといえば…1944年7月20日に起きたヒトラー暗殺未遂事件の被告に対する裁判の模様をご覧になられた方もおられることと思う。
フライスラーは“死の裁判官”といわれるほど、長官就任後の締め付けは厳しく…
彼の担当した裁判においては死刑あるいは終身禁固刑判決が激増した。

ローラント・フライスラーの裁判(7.20ヒトラー暗殺未遂事件公判)中の実際の映像
劇中アンドレ・ヘンニッケはそのフライスラー役を迫真の演技で熱演している。
額に青筋を立て罵倒する姿はその裁判の様子などをよく研究したのではないかと思える。
因みに、ヘンニッケは『ヒトラー 〜最期の12日間〜』でヴィルヘルム・モーンケSS少将役を…
『ヒトラーの建築家 アルベルト・シュペーア』ではルドルフ・ヘス副総統役を演じている。

午前10時に開廷した裁判は審議休廷をはさみ午後1時半ごろには判決が言い渡された。
判決は…勿論、“死刑”…
それも猶予期間も認められず…しかも即日執行というあまりに不当なものであった。
言論・思想統制に神経を尖らせていた政府、警察当局が、一学生たちの“白バラ”抵抗運動にさえ危険性・危機感を感じ、執拗に封じ込めようと躍起になっていたことが窺われる。
そしてシュターデルハイム刑務所に戻されたゾフィー、ハンス、クリストフら3人の刑は午後5時に執行された。
映画のラストシーンではゾフィーが断頭台の置かれた処刑室に入り斬首されるところで暗転…
後は音(声)のみのというところが逆にリアル感を演出している。
ゾフィーは、逮捕後の尋問の際の「こういったことを全部よくお考えになっていたら、あのような行動はとらなかったのではないですか?」という質問に…
「私はもう一度、すっかり同じ事をやるでしょう。 考え方の間違っているのは私ではなく、あなたがたの方なのですから…」と答えたという。
一貫した彼女の毅然とした姿勢、生き様を描いた映画としても…
また映画として純粋に作り手、演じ手の描き方を堪能するにおいても見応えのある作品なのではないだろうか。
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カテゴリ : Film
テーマ : 戦争映画(第二次世界大戦)
ジャンル : 映画