
有名人のそっくり蝋人形で知られるロンドンのマダム・タッソー蝋人形館が先頃('08 7/5)世界で7番目の分館をベルリンにオープンさせた。
ベートーベンやアインシュタインなど75体のなかに
アドルフ・ヒトラー↓も用意されていたが…
オープン初日に早くもそのヒトラーの首がもぎ取られるという騒ぎがあった。
因みに、制作費は約2万ユーロ(約340万円)とのこと。

分館は、ヒトラーが最期の時を迎えた地下壕から僅か350m程の目抜き通り沿いに立地しており…そのうえ、ユダヤ人を追悼する施設なども近くにあり…
当初から一部の政治家やユダヤ人団体、反ナチス団体などからは開館前から「ヒトラーを呼び物にするとは無神経で悪趣味!」「ネオナチの聖地になりかねない!」などの物議を醸していたものの、分館側は「ヒトラーはドイツ史の一部…外せばかえって歴史の美化につながる」と反論していた。
私も同感である!
戦後、敗戦国は戦勝国側の意向なのか戦中の詳細を湾曲する部分も多々見受けられる…
確かに人道的に反することも行われていたことは事実であるが…
実際に起こったこと…起こしたことは事実として…
“戦勝国が隠したい…隠した…事実”も含めて両者共に認識をしていくことが重要であり…
ヒトラーという人物を見ないように…なかったかのようにすることが果たして戦争反対につながるものかは?なところだと思う…
“憎し!”の意識が未だに薄れることのない事も確かに致し方のないことなのかもしれないが…
ただ、そうした“民族”でさえもまた平和裏には歴史を動かしてはいけないのは皮肉な事実ではある…(苦笑)
ところで、犯人?…実行者?は…開館直後(二番目)に入館した元警官だというベルリン在住の41歳の男性で…
仕切りのロープを飛び越え、ヒトラー手前にあった机に駆け上り「戦争反対!」などと叫びながら頭部をもぎ取ったのだという。
男はその場で取り押さえられ…
器物損壊に加え、止めに入った警備員などを殴り軽症を負わせたことから傷害でも逮捕・起訴されていたが間もなく釈放されたようである。
因みに、今回の事件に対し独メディアのなかには「やっとヒトラーの暗殺が成功した」など皮肉まじりに報じたが…
その2日後には“復活”を遂げられてしまってはそうした皮肉も藪蛇とも言えなくもない…(苦笑)
さて、その蝋人形の展示シチュエーションは広報担当によれば「崇拝されるべき人物としての印象を与えないように、第二次世界大戦終結の直前に地下壕で苦悩する“失意の人”を強調したものにした」とのことである。
騒動後…周りへの配慮からか…更に“失意の人”は強調されたようで…
髪をボサボサに…ネクタイを緩めて、だらしなさも強調させられたようです。
まぁ、ネクタイを鉢巻にして“バカボンのパパ”にされていないだけよかったのかなぁ~(苦笑)

そんな地下壕での“失意”のヒトラーをリアルに描いた映画がある。
それが2005年公開の『
DER UNTERGANG/ヒトラー ~最期の12日間~』である。
原作は
ヨアヒム・フェスト著書の『
ヒトラー 最期の12日間』…
そして、ヒトラーの最期を目の当りにした秘書
トラウドゥル・ユンゲが自身の死の直前に著した『
私はヒトラーの秘書だった』などをもとに脚本が書かれている。
1943年以降になると歳よりも老けて見えはじめ…
地下壕に閉じ篭った頃ともなると“まるで廃人”のようだったと表現する証言者もいるくらい外見的にも判る程に精神的にも荒廃していたヒトラー…
ただそうした状態のもとにあってもなお人々を引き付け、その威光が完全に失われたわけではなかったというヒトラーを
ブルーノ・ガンツが迫真の演技で演じている。

ヒトラーとその取り巻き連中の描き方については賛否両論あるかとも思うが…
私的にはかなり当時を知る者達の証言事項などが細部にわたって織り込まれ…
また市街戦などのシーンもかなり迫真に迫っており、なかなか見応えのある映画になっているのではないかと思っている。
ただ映画の内容・批評等については私如きが語るまでもなく少し検索をすれば他所でもご覧になることも出来ようかと思うで、ここでは映画の登場人物が実際にはどのような人物だったのかをサラッと触れるこにしようと思っております。
勿論、全員について紹介することは出来ませんので…
劇中で気になった登場人物だけをピックアップしてみました。
●ヒトラー専属副官
オットー・ギュンシェSS少佐役は
ゲッツ・オットーで…
雰囲気としてはまあまあな感じなのではないだろうか…
因みに、ご本人は2003年までご存命で享年86歳。

●今回の中ではヒトラー役の
ブルーノ・ガンツ(↓中央)と並んでかなり近い雰囲気を出していたように思えるのが
ハイノ・フレヒ(↓右)が演じた
アルベルト・シュペーア。
エヴァ・ヒトラー(ブラウン)に関しては、個人的嗜好を言わせて頂くと
ユリアーネ・ケーラー(↓左)より『
モレク神』の
エレーナ・ルファーノヴァの方がしっくり来るようにも思える。

●
ヘルマン・フェーゲラインSS中将は『
戦場のピアニスト』など独軍将校役としてお馴染みの
トーマス・クレッチマン(↓上段)が演じている訳ですが…
似ているかと言われれば首を傾げるところではあります。…(苦笑)
ただ、演じる役柄がこれだけ有名な人物なだけに階級(この時点では既にSS少将ではなくSS中将)は間違えないで頂きたいものである。
因みに、
ハインリヒ・ヒムラーSS全国指導者役の
ウルリッヒ・ネーテン(↓下段)に関しては…
まぁ、雰囲気としてはなかなかだとは思いますが欲を言えば…私的には少々“男前”過ぎなくもございませんが…(苦笑)

●ベルリン中央地区防衛司令官
ヴィルヘルム・モーンケSS少将役の
アンドレ・ヘンニッケ…これまた似ているかと言われれば首を傾げるところではあります。
因みに、
これはソ連軍に拘束された直後の写真だが、その窶れ方というか風貌からもベルリンを巡る攻防戦の苛烈さが窺い知れるのと同時に安堵感というものも垣間見られるのではないだろうか。

●
マルティン・ボルマンNSDAP全国政治指導者兼ヒトラー個人秘書兼SS大将役の
トーマス・ティーメ (↓)
衣装的にはフィールドグレーの開襟服にちゃんと43年型襟章を着用している。
(因みに、両肩の肩章もちゃんと一般SS型を着用している。)
ただ、少々思っていた印象よりもオドオドした感じに描かれていたのが…?(苦笑)

●ヒトラーの第二侍医だった
ヴェルナー・ハーゼSS予備役軍医中佐…
この写真を見る限りでは握手を求めた方?とも思える容姿ですが、オペ中のドクターの方である。
この写真はやはり拘束時に撮られたものですが、
証明書の写真だとこんな感じです。
劇中では
マティアス・ハビッヒが演じている。

●ヴェルナー・ハーゼSS予備役軍医中佐と共に地下壕において負傷者の手当に追われることとなった
エルンスト=ギュンター・シェンクSS軍医大佐(劇中ではSS軍医中佐となっている?)を演じた
クリスチャン・ベルケル。
シェンクは栄養学などに素養があったことなどから、戦地におけるW-SS兵士達のビタミン剤やプロテイン・ソーセージといったレーション開発・製造などに携わっていた。
ただ残念なことに、シェンク本人を収めた画像が検索出来なかったため今回は掲載できない。
※因みに、
これは晩年のシェンクのお写真である。
シェンクを演じたベルケルの父親が元軍医とのことであるが、母親はユダヤ人だったこともあり、戦時中は迫害を逃れてフランス、アルゼンチンなどに亡命していた。
ベルケルはこの後も、『
ブラックブック』『
ワルキューレ』などでもドイツ将校・将官役を演じている。

●
ヘルムート・ヴァイトリング砲兵科大将役の
ミヒャエル・メンドルは実際の雰囲気とは若干違うものの、なかなか魅力的に描かれていたように思います。

●今回の主人公
トラウドゥル・ユンゲ未亡人と共に官邸地下壕に残ったもう一人のヒトラー個人秘書の
ゲルダ・クリスティアン夫人…
劇中ではユンゲと対比させるためか少々見劣りさせるような人選になっていたような…
ユンゲ未亡人役は
アレクサンドラ・マリア・ララ(↓左)、クリスティアン夫人役は
ビルジット・ミニヒマイア(↓右)
さて、その主人公のユンゲ未亡人…
劇中でも触れられているように結構スモーカーのようで…
タバコが手放せないようですねぇ~(苦笑)
因みに、この
写真は夫である
ハンス・ヘルマン・ユンゲSS中尉とのツーショット…
その彼は1944年8月13日にノルマンディー地方ドルーで低空攻撃により死亡している。

●今回、ちょっと人選を間違えたのではとも思えるのが
ヨーゼフ・ゲッペルス役の
ウルリッヒ・マッテス…
私的には彼が
エルンスト・カルテンブルンナーSS大将に見えてしまって…(苦笑)

●さらに、人選を間違えたのではないかと言えば…
ヘルマン・ゲーリング国家元帥役の
マティアス・グネーディンガー…
ゲーリングはゲーリングでもITPTのゲーリングの元ネタではなかろうかと思えてしまうの私だけだろうか?…(苦笑)
アルフレート・ヨードル陸軍上級大将(OKW作戦本部長)役の
クリスチャン・レドル…
もぅ、何も申しません…(苦笑)

●この映画では、恐怖と欺瞞と退廃に満ちた息の詰まるような地下壕での時間を秘書のユンゲの目を通して描くのとは別に…その外…ソ連軍が迫り、激しさを増す攻撃・砲撃のなか…
恐怖と怯懦と狂信の錯綜する荒廃してゆくベルリン市街での時間を
ドネヴァン・グニア演じる
ペーター・クランツ少年の目を通しても描いている。
エンディングではそのペーターとユンゲが手を取り、共に明日へと歩き出すという…ある意味、象徴的なシーンでこの映画を締め括っている。

この映画には、実在した人物という…ある意味、絶対的な存在感をもつ登場人物たちの多いなか…登場するシーン、セリフこそ少ないが、ペーターと市街戦を共にする…三つ編みのブロンド少女…
インゲ・ドンブロフスキ役の
エレーナ・ツェレンスカヤ嬢の凛とした美しさが強く印象に残っているという方は少なくはないのでは…

●最後は
ブロンディ君です…
劇中のブロンディ役の○○○君は、まさにブロンディ君…私如きには見分けがつきません…
因みに、ブロンディ君と
エヴァの愛犬(スコティッシュ・テリア…地下壕に連れて来たのがニガス(Negus)かKatuschka(愛称“Stasi”?)かは不明)を毒殺したのが↑のハーゼ教授である。
【 Hinzufügen 】
< 劇中のシーンで気になった点について… >
◎
ゲッペルス夫妻と6人の子供達の最期総統官邸歯科医師のヘルムート・クンツ(劇中でマグダに頼まれ子供達に薬品を飲ませていた人物)の証言によると…
ほぼ劇中の如く…ただ若干違うのは…
注射によりモルヒネ(傾眠効果あり)0.5ccを…劇中では嫌がるヘルガに無理やり飲ませたことになっているが、ソ連軍への供述では…
マグダは、子供達に「いつもよその子供や兵隊さん達もしているやつよ」と言い終えると部屋から出て行きました。
私は長女のヘルガ、次女ヘルデ、次男ヘルムート、三女ホルデ、四女へータ、五女ハイデの順で処置していきました。
それが済んだのが午後8時40分…10分ほど経ってマグダと子供達の寝室に戻り、更に5分程待って一人一人の口に青酸カリ(1.5cc)のアンプルを砕いて含ませました。…ということのようである。
因みに、ゲッベルス夫妻の遺体焼却を頼まれたゲッベルス専属警護隊所属のギュンター・シュベーガーマンSS大尉の証言によると「焼却用のガソリンを用意している時に銃声が聞こえ、庭に行ってみるとゲッベルスとマグダの死体を発見する。マグダは毒(青酸カリ)を飲んで既に死亡していたが、ゲッベルスは自分ではどうしても急所を撃つことが出来なかったようだったので私は部下の一人に命じて止めをささせました。これは当初からゲッベルス本人に頼まれていたことでもあり、彼が撃ったあと念を入れて私がもう一度撃ち、それから死体を火葬に付すことになっていました。ただ、私にはどうしても撃てなかったのです…。」
時刻は5月1日午後8時15分頃だったという。
上記二人の証言では時間的に誤差が生じてはいるが、あのような状況下では記憶の不確かさは否めないかもしれない。

※1942年9月23日、北アフリカから一時帰国したロンメルが、ベルリン滞在中にゲッベルスの邸宅に招かれた際に子供達と遊ぶ様子を撮した映像である。
おそらく、10月3日に宣伝省を訪れた後にゲッベルス宅に招待されたものと思われる。
◎
ヘルマン・フェーゲラインSS中将の最期4月27日…地下壕の住人達の証言から…フェーゲラインが姿を消したことが発覚した…
ヒトラーは自分の第二飛行士でもあるベーツSS大佐を捜索に派遣…
ベーツはベルリンの自宅のベットに私服姿で横たわっているフェーゲラインを発見し、拘束している…
フェーゲラインはその場で妻グレートルの姉エヴァに直接電話をかけ、彼女に懇願するも無駄だったということである…
官邸地下壕に連れ戻された彼はハインリヒ・ミュラーSS中将(ゲスターポ局長)を裁判長とする簡易軍法会議に掛られ“脱走罪”の判決を受け、即刻官邸の庭に引き出され銃殺された。
このフェーゲラインに対する“銃殺”という判決の背景にはゲーリングの背信的行為以上に精神的打撃を与えるに至った“忠臣ハインリヒ”の裏切り行為に起因するところが大きかったものと思われる…
あのハインリヒ・ヒムラーが勝手に和平交渉を申し出たこともさることながら、総統である自分の身柄を引き渡す約束をしたともされ、“裏切り行為”に対する怒りは頂点に達した。
それと同時に、戦況がもはや絶望的であることを認めざるを得なくなったこの時点に至っては、ヒトラーはムッソリーニのような惨めな最期…“晒し者”としての最期だけは断じて避けなくてはならないという思いに一層駆られていくことになる。